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イタリアいなかまち暮らし

イタリアいなかまち暮らし

好まれない食べ合わせ

好まれない食べ合わせ

*** タブーな食べ合わせ ***

南イタリア人の食の保守性というのは、外国料理を食べないどころか他の地域の料理を食べないとか、山の人は海のものを食べないとか、非常に徹底している。
しかしその他にも伝統に基づく食べ合わせの禁忌というものがあり、家庭やレストランで厳格に守られている。(もちろん外国料理や、創作料理は別。)アジア人から見るとまったく普通の食べあわせが、病気の元かなにかのように嫌われているから不思議である。
一番厳格なものから順に紹介すると・・・

魚と肉
普通の南イタリア人はこの組み合わせは、後に紹介する例外を除いて、まったく食べない。理由は、「魚はデリケートだから混ぜると味がわからなくなるから」である。これらを一緒の皿に入れた料理は伝統的にはない。例えばえびとパンチェッタのパスタなんかはありそうなものだが、創作料理の部類に入り、伝統料理ではありえない(小さな地方の変わった郷土料理としてはありうるかもしれないが)。

ひとつのコースの中で両方の料理が出てくることもない。
イタリアでも肉と魚両方作るレストランは多いが、各自、あるいは各グループ、料理を決めるときは魚料理なら魚だけ、肉料理なら肉(野菜も)だけにする。

日本人がイタリア料理に行くと「パスタは魚だったからバランスを取ってメインは肉」となるかもしれないが、イタリア人にすればそれは「味のバランスを壊した」食べ方になってしまうのだ。
肉魚ミックスオーダーは日本人以外の外国人も平気でするので、観光客慣れした店ではなんとも思われない。が、田舎や、地元の人が多い店ではちょっと怪訝な顔されるかもしれない。ぜんぜん悪いことじゃないし、これが私たちの文化なんだから堂々としてたらいいんだけど、イタリア人にとってはちょっと変なことなんだ、と頭に入れておいたほうがいいかもしれない。

スペインに旅行に行った南イタリア人によると、「パエリアってさあ、おいしかったんだけど、肉と貝が一緒に入ってるのはイヤだったなあ。気持ち悪いじゃん?」。若い人である。
味のために混ぜてはいけないという理性的なルールだったものが、それを原則に育ったため、「気持ち悪い」という偏見になってしまっている。

パエリアだけでなく鍋料理や八宝菜、ミックスカレーなんかは彼らによればNGなのだ。(もちろんそこまで外国料理を食べる人ならそんな偏見はクリアしている。)いや、中華料理なんて実は魚料理でもラードや鶏がらスープが使われているのだから、もしその事実を彼らが知れば・・・?

魚とチーズ
この食べ合わせの回避も厳格に守られている。肉と同じ理由だ。なのでパルミジャーノチーズは魚介のパスタにかけてはいけない。
とろけるチーズを載せた白身魚オーブン焼きもありえない。
魚と肉は最も厳しく避けられているが、魚とチーズの禁忌はもう少しゆるいかもしれない。

例外

さて、これら魚と肉、魚とチーズ両方の組み合わせに対して、例外がある。

例外1;地域性
ローマなどでは多分みんな観光客が肉と魚介を一緒に注文して食べてるのを見て慣れているから、抵抗がないと思う。ミラノも実際に行った事はないが、開けた都市なのでこういう伝統的な拘束は弱いだろう。魚介のラグーにパルミジャーノというのは、厨房では結構隠し味として行われるらしい。
また、シチリア島では伝統料理でもペコリーノ(羊のチーズ)が魚介料理に使われたりするらしい。
それと例えばアドリア海の郷土料理に、ムール貝や蛸に詰め物をした料理があるが、それにはパルミジャーノチーズが入っている。
その他にも目に付かないような細かい例外が地方ごとにちょこちょことあると思う。

例外2;バッカラ
バッカラはからからに干した魚を水でやわらかく戻した食べ物だ。これは北欧でとれたタラが現地で加工されて輸送され、各家庭で食べる4、5日前に水につけ始めて完全に魚のやわらかさが戻ってから火を通して食べるもの。昔からそうやって北欧から運ばれてきた食品だ。タラは地中海にはいない。
昔は山の中でも手に入った唯一の海の香りだったのだ。逆に海沿いの地域ではあまり食べられない。つまりこれはどちらかというと「山の食べ物」と考えられているような傾向がある。肉料理ではないが、鮮魚料理でもない、どっちつかずな食べ物であり、ときには肉とみなしても許される傾向がうかがえる。なので肉料理レストランのコースにも入っていることもある。

例外3;バンケット(宴会)料理
昔々、貴族がいたころ、貴族の宴会というと贅沢さを強調して山の幸も海の幸も同じコースで味わうのが定番のスタイルであった。そのなごりとして豪華で正式な晩餐というと魚と肉両方がでてくる。
ホテルの宴会場での結婚式がその代表だ。
魚がまず最初に来る(デリケートなものを最初に味わうべきだから)。レモンシャーベットで慎重にお口直しをしてから、肉料理が来る。ここまですると厳格なイタリア人も納得するというもんだ。
なかでも豪華版では肉のフルコース→口直し→魚のフルコースとなるが、普通はプリモが2種類メインが2種類という感じらしい。

*** あまり一般的ではない食べ合わせ ***

次に紹介するのは厳格なルールではなく、もっと緩やかな、傾向のようなもの。人によっては気にする、という程度のもの。南イタリア限定。

魚と卵
そもそも卵そのものを食べる料理がイタリアのレストラン料理にはあまりないが、卵パスタにはたっぷり卵が入っている。タリアテッレ、タリオリーニ、ラビオリの皮、ラザニアのシートなどの手打ち麺である。これらを魚介とあわせたパスタ料理は好まない人もいる。

魚と野菜
それだけではない。イタリア人は魚介専門レストランに行くと徹底して魚だけ食べる。そもそも伝統料理で魚と野菜をあわせた料理はまずない。(トマトを野菜でなく調味料、アンチョビーペーストも調味料だと考えると、だが。)地方の郷土料理などにはあるかもしれないが、少なくとも全国で有名な料理と、私たちの住むモリーゼの料理にはない。

ウチのレストランで残り物をよく観察すると、例えば魚のカルパッチョの下に敷いたレタスにまったく手をつけずに、魚だけ食べる人が多い。半分よりちょっと多いくらいの人がそうする。飾りのパセリみたいな扱いか。
ウチのシェフ(夫)はたまに工夫して野菜を混ぜ込んだ詰め物をムール貝やたこに詰めたりするが、ある通ぶったおじいさんに「魚は、魚だけでいるべき!野菜はないほうがいい」などと言われていた。もちろんそこまでひどくない人が大多数である。一方で野菜の付け合せやサラダを別に頼む人もいる。

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と、われわれにしてみれば変なこと気にするなあと思うのだが、実は、言われてみれば思い当たるふしもある。

私は自己紹介でも書いてるように、シーフード料理の料理人の妻のクセに魚嫌いである。正確には青魚とか、魚くささを引き出すような調理法の魚料理とかがダメなわけで、魚臭さを抑えたものなら食べれるものも多いのだが。(例えば刺身だったら醤油とわさびたっぷりつけてシソ巻いて、とか、料理でもネギ思いっきりかけたり、ワインどぼどぼ入れて煮たりしたらおいしく食べれる。ヒラメみたくまったくクセのないものだったら焼いただけでも平気、というか大好き)

その私がなんかの拍子で肉を食べた後に魚を食べたところ「おぇ~魚クサ~」と感じたのだ。つまり肉と比べて魚は臭みが強いから、肉のクセのなさに口が慣れてしまうと魚が余計臭く感じてしまうのだ。だから肉の後に魚を食べるのが問題があるのはちょっとわかる。まあ二口目からは慣れるけど。
イタリア人も「魚はデリケートだから」なんて言ってるけど、実は私が感じるように魚は臭いから、なのかもしれない。ヨーロッパではよく魚を食べるほうといっても所詮は肉食民族だから。
ちなみに夫は魚大好きで、魚臭さは全然気にならないし、日本人同様、何を混ぜて食べても平気である。
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